アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

古井由吉 半自叙伝

2015年7月7日朝日新聞 随筆と小説の間で 古井由吉さんの短編集「雨の裾」

(略)

 新しさを求めて技術革新が進む社会にあらがうように、自身に積もる「時」を語る。

(中略)

 語られる時間は自在に行き来し、空間も現代、過去、未来が重なり合う。

 「よく知った道でも、ふと自分はいつ、どこを歩いているのか、と思うことがある。少年の頃に未来都市というのが漫画にあったけれど、それにもう似ているんだね、現代が」

 作中に印象的な場面がある。都市を歩きながら、自分の若い頃の影に追い抜かれる男の話だ。

 「これは実感です。青年、少年の体験がよみがえることもある。老いというのは一面、若返ることでもあるんですよ」

 時間を描くことは久しいテーマでもある。

 高度経済成長期の頃から、時の経過がとらえにくくなったと感じている。例えば仕事は新奇さを求められ、体験の積み上げでは通じなくなってきた。朽ちていく木造家屋ではなく、時の経過を拒むようなビルも増えていった。

 文章における時間の表現もまた、難しくなっていった。かつての文語文は文章の息が長く、その中に時間の移ろいを織り込んでいた。「今の口語文は言葉が切れ切れでしょう。みんな次の文章につなげるときに、はたと困っているんじゃないでしょうか」

 現代は時の蓄積を忘れ、病老死をも遠ざける。人間性が損なわれているように感じているという。

 「文明に行き詰まった時、人は何を求めるのか。(作品が)その時までのつなぎになってくれればいい。最後に、長編をやるのかなと思っています。それも随筆ともつかぬものになるんじゃないでしょうか」(高津祐典)

 

2015年7月7日 漱石の「真面目」から考える文学 大江さん×古井さん対談

(略)

 古井さんは「真面目さには、際どいところで生の欲求に走るものもある」と答え、「生の欲求が当たり前ではなく、強い意志で追い求める。それが戦後、現代文学の底流に、どれほど残っているか」と返した。 

 話題は、近代化の危機としての核問題に及んだ。人間が監視・管理しなければならないものが増えた現代。古井さんは「その緊張に耐えられるか。表を歩いているだけで、きつい緊張を感じる」と話した。

(略)

(高津祐典)

 

 
ゲスト古井由吉富岡幸一郎西部邁ゼミナール 2015年3月15日放送 - YouTube

 

 

半自叙伝

半自叙伝