アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

柴崎友香『わたしがいなかった街で』

  マンションの三階の部屋に辿り着くと朝早い仕事の母はとっくに寝たあとだった。ノートパソコンを開いて知人のブログを巡回しながら、焼き鳥とこんにゃくと糸こんにゃくとうどんを食べた。知人たちは概して「相変わらず」という感じだった。最近食べたもの、最近見た面白い画像へのリンク、職場の愚痴、取ってつけたようながんばろうとか仲間に感謝してるというような言葉。太田の両親がやっていたスーパーが閉店したことを書いていた同級生のブログを見ると、会社を辞めて中国語の勉強に行くと書いてあり、今日食べたラーメンの写真がアップされていた。

 中国語わたしもやりたいな、がんばってー、と適当なコメントを書き込みながら、まあなんというか、自分の周りはこういう感じで時間が経っていくんだろうな、と夏は思った。今はそれなりに、高級ではないけれどおいしいものを食べて三分ぐらいの動画見て笑って、自分たちはそこそこがんばっているのだと確認するためのコメントをしあっているうちに、だんだん先細りしていって、近所の店は閉店し、親は歳を取る。自分は、今の仕事が続く限りはあの職場に通いそうだ。結婚したいという気持ちは全く起こらないし、恋人がほしいとも思えない。じゃあ、ずっとここで母と暮らすんだろうか。(文庫 p118)

 00年「きょうのできごと」から注目していて、映画化されたものもビデオで観ており、今回読了は2冊目。(!注目って…)描写が非常に巧みでほんの一部分を切り取ってみても、背景を読み取ることが可能な細部を書き込んでいる。