『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』「結婚と井戸掘り」 ある小太りの占い師が…
ある小太りの占い師があなたには御先祖様の加護があるから一生幸せで、不幸なことになりかけても周りの人が助けてしまい、少なくともプラスマイナス・ゼロになりますと言った通り、てんで幸福で日々の些末な葛藤以外、コミットすべき困難も人生のテーマもさしてこれといって思い浮かばない。
村上 何度も結婚する人がいますよね、3回も4回も。
河合 そういうのは大抵、井戸掘りを拒否しているんですね。井戸を掘るのはしんどいから、掘らないであちこち別の人を探しているけれど、結局、同じような人を相手にしていますよ。
ほとんどのひとが井戸掘りなんてするつもりもないが、意識せずに掘っているということか。わたしは何を掘るつもりなのか。
村上 …いろいろなかたちで彼はコミットメントを迫られる。ただ奥さんのクミコさんだけが逃げていく。去っていく。でも、彼がほんとうにコミットしたいのは彼女なのです。
河合 あるいは、言いようによると、それまでコミットして来た人たちは、クミコさんにコミットするための通路のようなものだったのでしょうか。
んん…