アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

中村和恵「ウィーン」(2018.9「みすず」)

ジーン・リース『ウィーン』(引用)

 男たちがわたしをだめにした―いつもわたしの心には見向きもせず、身体にばかり執心して。女たちがわたしをだめにした、意味のない残忍さと愚かさで。唯一持っている武器をつかう以外、わたしにはどうしようもなかったじゃない?

手桶と盥を持って、彼女は勝手口を出たり入ったりしていた。身につけている白い胴着はとても薄く、胸の形がはっきり透けて見え、暗色のスカートをはき、裸足で、ちいさな頭にとても長い首、イシマのように切れ長の目をしていた―わたしは途方もない喜びを感じながら見つめた、彼女がほんとうにすらりとして若く、優美な絵のようだったから。そして彼女がわたしをちらりと見たとき、その目にはなにか誇り高く、野生的なものが浮かんでいたように思ったから―たとえるなら若い雌ライオンのような―ある女が別の女を見るときたいてい浮かべる、くだらない敵意じゃなくて。