アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

「懐かしい年への手紙」読解

 小説を結末まで読み切り、またすぐさまもう一度冒頭にもどって、そこから起こった事柄のいちいちに、ああそういう意味だったのか、とか、あああの出来事とそうつながっていたのか、と全体を見渡すことができる視点からもう一度読んでいく。それと同じように、ほんとうの結末はお預けのまま、人生のそのつど折々に、くり返し立ち戻り、何度も何度も帰ってくる懐かしい場所として、私たちは、幼年期や、青春時代や、恋人と過ごす時間を生きている。

ギー兄さんよ、その懐かしい年のなかの、いつまでも循環する時に生きるわれわれへ向けて、僕は幾通も幾通も、手紙を書く。この手紙に始まり、それがあなたのいなくなった現世で、僕が生の終わりまで書き続けてゆくはずの、これからの仕事となろう。

大江健三郎『懐かしい年への手紙』ラストより)