「ほんものの穀潰し」
自分から風土をぶちこわすようなやつこそ、ほんものの穀潰しというものだ
ゴットフリート・ケラー『マルティン・ザランダー』
十九世紀の文学作品のなかで、私たちの生活を今にいたるまで規定している発展のみちすじはをはっきりと示しているのは、スイスの作家ゴットフリート・ケラーの作品をおいてない。ケラーが3月革命の前夜(フォアツルメ)に執筆をはじめた頃には、あらたな社会契約への希望がうるわしい花を咲かせ、国民主権も実現なるかと期待され、その後に実際に起こったこととはまったく異なる展開が待っていそうに思われた。もっとも当時すでに共和主義は当初のヒロイックな特徴をいくらか失い、各地の自由主義者のあいだには偏狭な郷党心や狭量な小市民根性が広がっていた。
W.Gゼーバルト『鄙の宿』「死は近づき 時は過ぎ去る―ゴットフリート・ケラーについての覚え書」より
とはいえ、そのような偏狭で狭量な心理的動機からだけ、社会の進み行きが方向づけられるわけではない。