アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

感情教育(「想像力」について2)

 ―Kちゃんは暢気坊主でありながら、片方では取越苦労で、いつもなにか悪いことが自分や家族に起こるのじゃないかと、気に病みながら生きているという気がするよ。そしてこれまでのところ、実際に起こったのは、惧れていた悪いことより耐えやすい、むしろなんでもないことじゃなかったかい?自分にもそういうところはあるからな。この課題について考えて来たけれども、バルザックの『幻滅』を読んでいて、そこに一行書いてあることから思いあたったよ。それは「想像力」のせいなんだ。「想像力」ということが、つまりは取越苦労のもとでね。われわれが成長し・成熟するためには、「想像力」の機能をコントロールして、日常生活ではほぼそれを休眠状態にしておかねばならないと思うね。作家の仕事でこそ、「想像力」の能力がなにより肝要だとしても……(大江健三郎『懐かしい年への手紙』「第八章 感情教育(二)」p379‐380)

 そのように言いながらギー兄さんは結局、自分自身がその「想像力」のために、友人Kの妻の身を案じてデモに参加し、そこで出合った出来事から自分自身を破局へと導いていく運命の陥穽に嵌まっていくことになるのだが…