アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

説得を妨げる確証バイアス 『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』書評

 15年のアメリカ共和党候補者討論会で、ドナルド・トランプが当時の有力候補で小児科医のベン・カーソンに「自閉症MMRワクチン接種のせい」と発言し、その場面を視聴していた科学者である著者(ターリ・シャーロット)でさえ一瞬パニックになり、聴衆にとっても説得的な説明と受けとられたことについて、「なぜカーソンの科学的な説明よりもトランプの説明の方が説得的なのだろうか。」という事実に対する評者の説明。

 人は状況をコントロールしたいという根源的欲求を持っているが、コントロールを失う不安を巧みに利用した。また、他人の失敗を例にあげて感情を誘発することで、脳の活動パターンを自分と同期させ、彼の視点でものを見るように仕向けた。一般には、ひとを説得する方法として、不安よりも希望をもたらす方がうまくいくが、例外がある。何もしないようにさせることと、説得相手がすでに不安な状態にある場合だ。(「毎日新聞」9月22日(日)朝刊、大竹文雄「『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』(ターリ・シャーロット著)書評」より)

 他人の意見を聞いて、「一理ある」と反対意見に対しても寛容になれるのは、対立している意見の持ち主に同期する能力と言えなくもないが… 

 そして、本書で取り上げられている一般的な問題「確証バイアス」について、

 統計的な数字というエビデンスを用いた説得が必ずしもうまくいかないのはなぜだろうか。著者は、人々には自分がもっている信念と一致した情報を集めるという確証バイアスが存在することを理由にあげる。特に、インターネットでは様々な情報が簡単に得られるので、自分がもともと信じていたことと整合的な情報だけを集めて、反対する情報は無視することができる…

確証バイアス(かくしょうバイアス、英: confirmation bias)とは、認知心理学社会心理学における用語で、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと。認知バイアスの一種。また、その結果として稀な事象の起こる確率を過大評価しがちであることも知られている。(出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』)

 本書では、ではどのようにすれば、人の意見を変え、正しい行動に促すことができるのかが語られることになるが、わたしにとってはこの本が、前回話題にした周囲の人たちの非論理的な傾向=愚かさについての、心理学的な説明根拠となるのでは?という印象を与える者だった。しかし結局それは自分自身の判断や行動の正しさに戻ってくる批判ともなるだろう。

 先週も「消費税増税」に対する賛成意見を探したがなかなか見つけられずにいて、そもそもが、「賛成意見」などあるのだろうか?反対意見のデータの豊富さや論理的整合性の精緻さと比較して、きちんと論理的に納得できる根拠はないのではないか?などと考えて不審に感じたりもしたが。もともと読む新聞や雑誌、ネット上の情報も、信頼している論者も含めて、自分の価値観に一致した、自分の意見を支持する情報ばかりを無意識に選択して、そればかりを根拠にしていろいろな出来事を判断しているとしたら、自分の意見に反する、信頼性の高い情報を見つけられないことにも納得がいく。

 自らの認知バイアスに自覚的になることの重要さ…愚かさの回避……とりあえずは、本書に目を通して、それから。