大江健三郎『暴力に逆らって書く』スーザン・ソンタグとの往復書簡 引用
間違っていると知っていても、間違っていることをやってのける、人間のその能力にも私は驚いています。
アルゼンチンの海軍武官、アドルフォ・F・シリンゴ少佐についてお聞きになったことがありますか。七〇年代後半の軍事独裁政権がとらえた政治囚の多くを、きわめて恐ろしい方法で処刑したことを数年前に告白した人物です。政治囚を海軍機で上空に連行し、飛行機から投げ落としたというのです(しかも、これは「軍の命令」の遂行だったと)。…(略)p160