アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

四元康佑「トルコ・ハルフェティで連詩を巻く」感想

そこで僕は(連詩のルールについて:注引用者)次のようなことを話した。 連詩には連歌のような細かいルールはないが、その精神は受け継いでいる。一言でいえば我を張らず、相手に合わせるということだ。いかに前の人の詩を深く受け止め、次の人へ思いやりを…

『セロトニン』読みながら

ミシェル・ウェルベック『ショーペンハウアーとともに』(3) 世界には努力ではいかんともしがたいクラスの差や国籍の差があり、ウェルベックを読むたびうんざりさせられる。『プラットフォーム』に続き、『セロトニン』を読みながら。 精神の力に身を委ね…

ほとんど天才という言葉を使ったことのないグールドがリヒテルだけには…

「幻覚」には別の意味もあります。つまり、ベートーヴェンの弾くベート―ヴェンやモーツァルトの弾くモーツァルトの再現などできようはずもないのだから、演奏はあくまで幻覚だ、という意味です。そもそも再現などできたら音楽生活はずいぶん退屈なものになっ…

毎日新聞 書評メモ つづき

数百万人以上の犠牲を出した独ソ戦はなぜ始められたのか。藻谷浩介の書評から。 …そもそもヒトラーには、旧ソ連の住民を死に追いやってドイツ人植民者に食糧を生産させるとの、恐るべき妄想があった(世界観戦争)。だが著者はそれとは別に、ドイツ軍の指導…

説得を妨げる確証バイアス 『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』書評

15年のアメリカ共和党候補者討論会で、ドナルド・トランプが当時の有力候補で小児科医のベン・カーソンに「自閉症はMMRワクチン接種のせい」と発言し、その場面を視聴していた科学者である著者(ターリ・シャーロット)でさえ一瞬パニックになり、聴衆にと…

愚かさについて(3) 

賢者は、自分がつねに愚者になり果てる寸前であることを肝に銘じている。 オルテガ・イ・ガセット 鷲田清一『濃霧の中の方向感覚』「「摩擦」の意味―知性的であるということについて」では、ひと(政治、社会)が陥りがちな性向について指摘する。 周囲を見…

小プリニウス書簡集 文人生活の賛美

小プリニウスは、時間があれば、別荘に赴き、余暇の時間を楽しんでいる。ティフェルムヌ・ティベリヌムの別荘―小プリニウスは、「トゥスキ(トスカーナ)の別荘」と呼んでいる―での夏の日の一日を友人に報告した書簡(第九巻三六)が残っているが、それによ…

「至高性」

バタイユは、〈消費〉の観念の徹底化として、「至高性 la souveraineté」というコンセプトに到達する。至高性とは、〈あらゆる効用と有用性の彼方にある自由の領域〉であり、「他の何ものの手段でもなく、それ自体として直接に充溢であり歓びであるような領…

Wachet auf, ruft uns dieStimme ( Johann Sebastian Bach Kantate BWV 140)

バッハが聴ける、いや、バッハが楽しめるということが、どんなにかけがえのない幸福であるか。お節介な言い方で大変恐縮であるが、音楽が好きだったら、バッハに心から没入できるようになったほうがよい。いや、私は、むしろゲーテを真似て、「バッハの味を…

愚かさについて(2)

知性はいかに愚行と共謀するか。この問題を真剣に考えていたのは、両大戦下のウィーンに生きたロベルト・ムージルである。彼は『特性のない男』のなかで書いている。 「もし愚かさが、内側から見て、買いかぶられる才能に似ているのでなければ、もし愚かさの…