アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

小プリニウス書簡集 文人生活の賛美

 小プリニウスは、時間があれば、別荘に赴き、余暇の時間を楽しんでいる。ティフェルムヌ・ティベリヌムの別荘―小プリニウスは、「トゥスキ(トスカーナ)の別荘」と呼んでいる―での夏の日の一日を友人に報告した書簡(第九巻三六)が残っているが、それによると朝は日の出とともに起床し、すぐに自分の文学作品を推敲してしばらく時を過ごし、その後は散歩したり馬車に乗ったりして楽しみ、帰宅後は昼寝をし、起きると今度はギリシア語やラテン語の弁論集を朗読。その後、ふたたび散歩し、入浴、そして夕食を取る。夕食後は、竪琴弾きの演奏などを聴き、または今度は家族と散歩に出かけて、一日を終えている。日によっては狩猟に出かけることもあったようであるが、プリニウスの場合は、狩猟に行っても、必ず雑記帳を持っていき、思いついたことはメモするようにしていた。プリニウスの言うところでは、「たとえ獲物がとれなくても、手ぶらで家に帰らないため(同)」(国原吉之助訳)であった。

(井上文則『軍人皇帝のローマ』(講談社選書メチエ)第五章「元老院議員の世界―その文人的生活」p139)

プリニウス…『博物誌』の著者大プリニウスの甥で元老院議員。

「田舎では聞いて後悔するようなことは何も耳にせず、言った後で悔やむようなことは何も言わず、目の前には誰かを不快な陰口で引き裂く者もおらず、私自身誰をも責めず―良い文章が書けなくて自分を詰る以外は―いかなる期待にもいかなる不安にも惑わされず、いかなる噂話にも心を乱されず、ただ私とのみ対話し、そして本と話すだけです。これこそ、誠に真実にして純粋な生活、芳醇にして高貴な、ほとんどあらゆる仕事より美しい閑暇(第一巻九)」(国原吉之助訳)(同上p140)。

 一年のほぼ五分の二が休日で、不必要な人間関係にも煩わされず、自己との対話と、死者たちとの対話のなかに時を過ごすことの贅沢に改めて思いを致す。