アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

津島佑子『半減期を祝って』(1)

子どもたちの運動会と言えば、最近、新しい法律をめぐって大騒ぎになっているらしい。中学生の親たちのなかには、どうしたってこんな法律には承服できない、と国会議事堂まで行き、むかしなつかしい座り込みをしているひとたちもいるという。

四、五年前に、独裁政権が熱心に後押しをして、「愛国少年(少女)団」と称する組織、略して「ASD」ができ、それが熱狂的にもてはやされるようになった。子どもたちがむやみに入団したがるので、順番待ちの状態になっている。「ASD」をモデルにした漫画がこのブームを作り出したという話だった。キャラクターつきの商品も売り出されているが、いつでも入荷待ちの状態で、それでますます人気があおられる。

その動きに眉をひそめる親たちは子どもたちを叱り、引き留めようとする。あんなものにおどらされちゃいけない、と。「ASD」に熱中する子どもたちは、「神国ニホン、バンザイ!」とか、「われら神の子に栄光あれ」とか、極端に神がかった、しかも、いかにも漫画的なことばを本気で口にしはじめるので、親たちの心配も無理はなかった。けれど、政権側は政権側で黙っていない。「ASD」に子どもを入れたがらないような独善的な親は決して見逃せない、ということで、新しい法律を作ろうとしている。「ASD」をきらい、無視しようとすれば、親としての責任放棄の罪を問われ、最低十年の禁固に親たちは処せられるというとんでもない内容の法律らしい。

親が逮捕されたらどっちみち、子どもたちは「ASD」に行くことになるので、それならはじめから入団させておこう、という親が増えている。どうしても入団を拒否しつづけようと思ったら、ほかの国に亡命するしかない。

ASD」は十四歳から十八歳までの四年間の子どもたちが対象となっていて、十八歳を過ぎたら今度は、男女を問わず、国防軍に入らなければならない。「ASD」の出身者であれば、優先的に国防軍の幹部候補として扱われる。つまり、戦争をどの国ともしていない現在は、貴族のような待遇を享受できることになる。(p87~88)

 あと「メリトクラシ―」と「国際資本の動き」を味付けして、「戦争をどの国ともしていない」を「している」と訂正すれば、現在のこの国の有り様が正確に描写されているといえる。

そして、これはいま現実の私たちの欲望を表しているとも感じるし、まさにそれを目の前にした時の私たちのとるはずの行動、そして目の前に2017年の社会/世界の現実を前に、自分たちに内面化された価値に従って、いま現に私たちがとっている行動をいきいきと描写しているとも。

どの世代にとっても自分の生きている現実は、デフォルトスタンダードからの漸進的な変化の結果にすぎないので、日常を過ごすなかで見聞きする社会情勢はとてもの馴染みのある世界のものと感じられるのがふつうである。