『ピアノを弾く哲学者 サルトル、ニーチェ、バルト』 フランソワ・ヌーデルマン
音楽が孕む時間と感情は、言語を経由しない質のものである。
サルトルは政治的な闘争をたたかいつつ、哲学書や小説を執筆し、それと同時に人生を通じてピアノ演奏する時間を手放さなかった。それは彼に社会的な生とは異なる時間、異なる感情生活を与えるもので、女性的な世界感受の仕方、女性的な価値観の象徴であった。
彼自身、ブーレーズなど同時代の作曲家の作品について論じることはあったが、決して言及しなかったショパンの作品こそを愛し、上手とは言えない演奏を生涯にわたって続けた。
より深い意味で、想像上の時間性に定期的に働きかけることによって、日常の時間からの逸脱が生じ、また促される。音楽のうちに生きる人々は自分の時代と一つになっていないという感覚を抱くことがあるが、それはそこから生じるものだ。彼らはそれが自由に組み合わせた時間を使おうとする、内密かつ持続的な抵抗であることを直感的に知っている。
ピアノを弾く哲学者 サルトル、ニーチェ、バルト (atプラス叢書)
- 作者: フランソワ・ヌーデルマン,橘明美
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2014/11/29
- メディア: 単行本
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