阿部昭「短編小説礼賛」（１５京都大１）

　チェーホフが、彼に恋した作家志望の人妻アヴィーロワに語ったという「生きた形象から思想が生まれるので、思想から形象が生まれるのではない」という言葉

　『ドゥルーズの哲学』での「思考の受動性」に通じる。

　自発的に考えていると感じる場合にも、ひとは当のそのことをそのように考えるべく、自己の置かれている状況に規定されている。

　具体的な出来事に規定されて思考は起動し始めるし、そもそも自分が何を記憶しているのかは、ある特定の状況の中で想起されてこそ、自分に知られることができる。