アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

現代社会の矛盾と絶望(『セロトニン』の帯より)

 幸福な人間が安心した気持ちでいられるのは、ただ不幸な人々が黙ってその重荷を担ってくれているからであり、この沈黙なしには、幸福はあり得ないからにすぎないのです。これは社会全体の催眠術じゃありませんか。(アントン・チェーホフ「ともしび」より)

  村上春樹「かえるくん、東京を救う」は、あるいは内田樹がいつも指摘する「雪かき仕事」は、誰にも知られない行為や善意が、それでもこの世界を支えている、この社会を回している、ということに英雄的な意味を読み取る発想で、実際にはそれらの行為は、徹頭徹尾沈黙を強いられ(つまり本当にだれにも知られることなく)、個人のすべての幸福の機会を奪われ、そして奉仕した社会そのものも不正がはびこり、悪意や欺瞞の勝利し繁栄する(それこそウェルベック風に言えば)クソみたいな世界なのだ。

 それでも世界が、沈黙を強いられた人たちにとって生きるに値するものだとするなら、それはなんのためか。