アタマの中と世界を結ぶ 東山とっとりとりとめない記録鳥

人生五十年下天の内を比ぶれば、残り七年強。

「ベルリンの奇異茶店から世界へ」多和田葉子/堀江敏幸 対談(「新潮」2017.7)

非在としてのアジア 堀江 多和田さんは、朗読会やシンポジウムなどで、よくドイツの外に出られますが、日本に帰ってくるとき、他とちがう思いはありますか。 多和田 日本に着くとすごく嬉しいんですが、でもこの日本は私が帰りたい日本とちょっと違うなとい…

木下順二「子午線の祀り」知盛のセリフ(池澤夏樹「終わりと始まり」170805より)

木下順二はこの芝居の主題を、運命は天が決めるか否かに置いている。知盛は問う―「負け戦さ―わが子武蔵守知章を眼前に見殺しにして逃げたこと―馬を敵の手に放ったこと―その一つ一つが、すべてはそうなるはずのことであったといま思われるのはどういうことだ…

After the first death, there is no other.

A Refusal to Mourn the Death, by Fire, of a Child in London Never until the mankind making Bird beast and flower Fathering and all humbling darkness Tells with silence the last light breaking And the still hour Is come of the sea tumbling …

蜂飼耳「松浦理英子『最愛の子ども』」書評より 恋愛?友情?友愛?いいえ…

世の中には恋愛や友情や友愛といった言葉があって、誰でも使うことができる。けれど、人と人との関係をじっと見つめるなら、どれも恐ろしいほどに唯一のものであり、本来的には名付けることなどできはしないのだと気づく。 (中略) …名付けることのできない…

「大岡信を送る 2017年  卯月」谷川俊太郎

大岡信を送る 2017年 卯月 本当はヒトの言葉で君を送りたくない 砂浜に寄せては返す波音で 風にそよぐ木々の葉音で 君を送りたい 声と文字に別れを告げて 君はあっさりと意味を後にした 朝露と腐葉土と星々と月の ヒトの言葉より豊かな無言 今朝のこの青空の…

漸進主義は現代医療のヒーローだ1 アトゥール・ガワンデ

医療に対して、私たちはヒーローに対するのと同じような期待を抱いている。第二次世界大戦後、ペニシリンなど山ほどの抗生物質が、それまで神の手によるしかないと思われていた細菌性疾患の災禍を克服した。新しいワクチンがポリオやジフテリア、風疹、麻疹…

「折々のことば」663 鷲田清一

全員が同じスキを持っているという安心感が、彼らを無防備にさせる。 ナンシー関「信仰の現場」から

「コルヴィッツ通り」多和田葉子 『新潮』2016年4月号

子どもは親のすべての表情、仕草、言葉を最終的には解釈できないままに記憶し、夜空のように肩に背負って歩いていく。P132 自らある程度年をとってからちりばめられた星と星をつなぐように記憶の断片をつないで、柄杓や熊のかたちをした星座を描いてみて、雪…

『フェルメール 光の王国』福岡伸一

『群像』2017年5月号 大澤真幸/松浦寿輝 対談「「近世」への三つの球」**P28~29 バロックの三つの主要な主題「ヴァニダス」「メメント・モリ」と「カルペ・ディエム」そこにおける「この一瞬の享楽」と「永遠の相の下にとらえられた一瞬」について。 フ…

アントワーヌ・コンパニョン『書簡の時代』 ロラン・バルトについて

まずは書評について。

意志の唯物性 意識はどれほど物理的か

17 自由 進化論の説くところによれば、ぼくらはあらかじめ創造された天地に投げ込まれたアダムとイブではないのである。わかるべき世界にわかりたい者が投げ出されたのではなく、わかるべき世界とわかろうとする者とが、互いに互いを作り合ってきたのだ。 …

柴崎友香『わたしがいなかった街で』

マンションの三階の部屋に辿り着くと朝早い仕事の母はとっくに寝たあとだった。ノートパソコンを開いて知人のブログを巡回しながら、焼き鳥とこんにゃくと糸こんにゃくとうどんを食べた。知人たちは概して「相変わらず」という感じだった。最近食べたもの、…

鼠骨来る 共に午餐をくふ/鼠骨去る 左千夫義郎蕨真来る 晩餐(鰻飯)を共にす 正岡子規

◇ 病床で激痛にのたうちまわる俳人を、友人や弟子筋がひっきりなしに見舞う。まるで病床がサロンになったかのよう。代わりに痛むわけにはいかないけれど、傍らでしばし気を散らせることはできる。そこには痛む人を孤立させないという知恵が働いていた。そう…

人間が抱く嫉妬のなかで最も暗くて陰湿なのは、対象となる人間の正しさや立派さに対してなの。 宮本輝

◇ 心ある大人たちに育てられた戦災孤児は成長して、長く住み込みで働いた先の老婦人にこう言われる。人は、正しいことをまっすぐにできる人のその“無垢”に嫉妬することがある。その伸びやかな光に照らされると、意識にいつも屈折を強いてきた自身の境遇ない…

現在に生きる 加藤周一「夕陽妄語」

841022 安危在是非不在強弱

行動を起こさないわれらの仲間たち

人類は目に見えないものを見る能力を持ち、歴史に対する想像力、伝統に対する創造力などはその最たるもので、歴史意識の欠如とは、個々の歴史的知識をあまり多くは持っていないということではなく、無限に詳細な探究を可能とする時空や事象の地平が、そのつ…

「名付けられないもの」として父祖たちが持っていた敬虔さを失った“我ら”

一般に、人が異教を排撃するのは、自らの宗教を熱烈に信じるからだと考えられるが、実は、そのような所ではむしろ、異教に対して寛容である。異教を排撃するのは、自らの宗教を信じていない時である。トッドの考えでは、フランスに反イスラム主義が生まれた…

愛することを永遠にやめれば弱みがなくなり、地球を支配できるだけの権力を手に入れることができる

そんなある日、ひとりのセールスマンがアルベリヒの家を訪れた。愛することを永遠にやめれば弱みがなくなり、地球を支配できるだけの権力を手に入れることができる、というのである。黄金に輝く権力があれば女性などいくらでも寄ってきますよ、サービス品み…

八月六日無数の惨めさに向き合う

黙示録的意味や歴史的意義は必要としない人たちと 婉曲な表現をするのはよそう。その日の午後へ向かう。躰は大火傷でケロイド、なけなしの平穏である隣人たちと垂れ下がる皮膚を見せ合い言葉もない。何より自ら産み育ててきた子どもが生焼けで泣く力もなく蹲…

古井由吉 半自叙伝

2015年7月7日朝日新聞 随筆と小説の間で 古井由吉さんの短編集「雨の裾」 (略) 新しさを求めて技術革新が進む社会にあらがうように、自身に積もる「時」を語る。 (中略) 語られる時間は自在に行き来し、空間も現代、過去、未来が重なり合う。 「よく知っ…

関係の絶対性

関係の絶対性において、政治にかかわることができない一般庶民に加害性を押し付けることは、たとえば無差別空爆や大量虐殺などの行為に対する正当性を生み出す視点なのではないか。私たちや、あるいは私たちの子どもたちに、アフリカの貧困に対する責任があ…

最近読了したものから

『日本語が亡びるとき(増補版)』水村美苗 増補 日本語が亡びるとき: 英語の世紀の中で (ちくま文庫) 作者: 水村美苗 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2015/04/08 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (5件) を見る ◎再々読。読むたびに、とくに読書の…

「想定外のことが起こらない限り、絶対に安全です」・・・多和田葉子「彼岸」

今日かもしれない、明日かもしれない、百年後かもしれない…というのは、正直キツイ… それならいっそ、「再稼働」グループと「想定外に備える」グループの落としどころを探り、「支援計画を整備しよう」と言われたとしても、「再稼働」への表立っての批判は期…

阿部昭「短編小説礼賛」(15京都大1)

チェーホフが、彼に恋した作家志望の人妻アヴィーロワに語ったという「生きた形象から思想が生まれるので、思想から形象が生まれるのではない」という言葉 『ドゥルーズの哲学』での「思考の受動性」に通じる。 自発的に考えていると感じる場合にも、ひとは…

『ピアノを弾く哲学者 サルトル、ニーチェ、バルト』 フランソワ・ヌーデルマン

音楽が孕む時間と感情は、言語を経由しない質のものである。 サルトルは政治的な闘争をたたかいつつ、哲学書や小説を執筆し、それと同時に人生を通じてピアノ演奏する時間を手放さなかった。それは彼に社会的な生とは異なる時間、異なる感情生活を与えるもの…

『ジャッキー・デリダの墓』 鵜飼哲

「絵画とは、人間を、おのれ自身の中および外の恐るべき力、運命、自然と対決させる冒険である。」 ジャン=ミシェル・アトラン(「絵画に〈声〉が来るとき」より) この引用部分の冒頭、「絵画」の部分を、「音楽」や「文学」と変えても同様の意味を表わす…

朝日新聞 論壇時評 寛容への祈り 「怪物」は日常の中にいる 高橋源一郎

田原(牧)は、こうも書いている。 「彼らがサディストならば、ましだ。しかし、そうではない。人としての共感を唾棄し、教養の断片を無慈悲に現実に貼り付ける『コピペ』。この乾いたゲーム感覚ともいえるバーチャル性が彼らの真髄だ。この感覚は宗教より、…

オルハン・パムク『雪』(ハヤカワepi文庫)

雪〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫) 作者: オルハンパムク,宮下遼 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2012/12/07 メディア: 文庫 クリック: 2回 この商品を含むブログ (3件) を見る 王侯やブルジョアに対する恥辱、宗主国や欧米に対する、アメリカに対す…

「自己責任」ということばの意味とわたしたちの自画像

このような状態で亡くなった人に対して「自己責任」という言葉を吐く人間の価値。なにを生み出すにしろ、何を維持していくにしろ、人間としての品性=信頼性に資する発言ではない。発想の貧困を思う。それがひとつ。そういう人間を生み出しているわれわれに…

数学とは

形式的な整合性の中で成り立っているバーチャルな世界の秩序は、ただ利用されることで有用性や意味(価値)を持つ無意識のようなもので、それ自体の価値を確立する境位を持たない。これは観念的に扱われる世界そのものにも適用可能なルールであるか。 現代の…