ダントツによい西脇順三郎訳「バーント・ノートン」
「神の御言葉は、
人々に共通なものであるのに
人々は各々自分だけの考えで生きている」
「上がる道も下る道も同一である」
―ヘーラクレイトス
バーント・ノートン
Ⅰ
現在と過去の時が
おそらく、ともに未来にも存在するなら
未来は過去の時の中に含まれる。
すべての時が永遠に現存するなら
すべての時はとり返しが出来ない。
あり得たものは一つの抽象されたもので
ただ思索の世界にしか
永遠に可能なものとして残るだけだ。
あり得たものも、あったものも
一つの終わりを指さす、それは永遠に現存する。
足音は記憶の中に反響する
開けたことのない薔薇園への出口のある
通ったことのない廊下に
反響する。私の言葉は反響する
そんな風に、あなたの心にも。
だが何のために
……
『西脇順三郎コレクションⅢ翻訳詩集』「エリオット『四つの四重奏』」p129より
けっきょくのところ、過去も未来もなくただ現在の抽象的な思索をそのように名付け、あったこととあり得たこととも区別することなく、くりかえし人はたとえそれが苦痛という刺激であったとしても、その享楽のなかに淫して、生きる糧とする。もしくは死ぬる理由とする。
……
過去にも未来にも延びつながる
この空しい悲しい時間は馬鹿々々しい。
『ある島の可能性』のさいごにあってもいいような詩句だね。
- 作者: ミシェルウエルベック,Michel Houellebecq,中村佳子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
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